蕎麦が美味しかったです(稽古日記10/7)

この日の朝はコンディションがあまり良くなかった。というのも、この週の僕は少しばかり体調を崩していたのである。
二泊三日の合宿、アメニティの類は現地にはなく、さらに衣装もトランクに詰め込まねばならない。残業の後は気だるさだけが重くのしかかり、やる気が起きず、時間だけが無常に消化されていく。昨夜はそんな様子だったから、寝るのはすっかり遅くなってしまった。
前日から残る頭痛に頭を抱えながら、コロナウイルスの抗原検査を行う。結果は陰性。晴れて合宿に参加できることになった僕は、パンパンのトランクと、衣装を詰め込んだ手提げ、衣装の革靴の入ったユニクロの紙袋(手荷物ほとんど衣装!)を両手に抱えて、迎えに来て下さった我らが会長の車の後部座席に乗り込んだのである。

三連休の頭ということもあり、道中は渋滞に行く手を阻まれた。到着予定時刻は12時45分。そこから荷下ろしの作業をして、早々に稽古を始めるというストイックなスケジュールである。お昼ご飯は到着予定時刻までに各自で済ますことになっているので、渋滞が長引けば長引くほど、食事の時間が減ることになる。平日の仕事を想起させるようなせわしなさだが、車の窓越しに降り注ぐ日差しが心地よかったのはせめてもの救いだ。

劇団員はすっかり腹を空かせている様子でお昼をどこにするかという話題で、劇団のラインは大いに盛り上がっていた。僕は基本ラインは見る専なので、特に主張はせず、流れに身を任せてることにした。我々の班の今日のメニューは蕎麦に決まったようだ。

お腹がすっかり空いた頃、渋滞を乗り越えたのかするすると車が進んでいく。狭く入り組んだ山道を進んでいくと、目的の蕎麦屋にたどり着いた。見た目は趣ある古民家。先行して到着していた劇団員がいなければ、我々は辿り着けずに延々と周囲をさまよっていたことだろう。

中は外観に受けた印象通りだった。畳張りの上にシックな黒塗りの机、棚には日本人形や鎧兜が鎮座しており、図らずもテンションがあがる。室内には蕎麦の匂いが充満しており、お腹の虫はすっかりこの芳醇な香りにやられてしまっているようだった。だが、それは今思えば大きな間違いで会った。注文を受けた店主はおもむろに蕎麦の製粉を始めたのである。聞けば、準備に40分ほどかかるという。店内には先客が一人、のんびりとスマホをいじっている。

「これはいかん」

しかし、オーダーはもう通ってしまっている。この時、すでに時刻は12時を回っている。およそ、予定の時刻に間に合いそうもなかった。心は焦りを感じているが、お腹の虫は踊っている。こうなってしまってはどうしようもなかった。抗うすべもなし。

蕎麦の耳(蕎麦切りした後の余り)を揚げたもの

岩塩を振っていただく。あまりの香ばしさに衝撃を受ける。ちゃんとした蕎麦屋はこういうの出すんだよと、気の良い店主はしたり顔で言う。これが前菜というのなら、この先我々は何度舌鼓を打てばよいのだろうか。まるで見当がつかない。

鮎、さつまいも、しし唐、ピーマン。揚げたてのさくさく。

食感のあまりの小気味の良さに、我々の胃はすっかり掴まれてしまった。客が多過ぎると少し不機嫌そうにボヤく店主だが、我々はすっかり彼の作品の虜である。

店主自慢の手打ち蕎麦。抜群の噛み応え。蕎麦の香りで頭が沸騰しそうになる。

時間がもう少しあればもっと美味しくできたと、劇団員以上にストイックで職人気質の店主。この匠の姿勢を我々は模範として胸に刻み、蕎麦をずーるずるとすする。この瞬間、僕たちは時間という概念から脱却した。物言わず、蕎麦のこしを噛みしめるだけの存在となったのであった――

劇団宇宙の森におわす神、じみぃさんの煮込みハンバーグ。肉汁が凝縮されており、ソースは濃厚。

夜、すっかりお腹と背中がくっついている哀れな子羊たちの前に振る舞われたのは、14人前の煮込みハンバーグ。
劇団宇宙の森のスタッフじみぃさんが一人で、しかも三日間も調理を行うというのだから、劇団員はただただ恐れ入るばかりである。
美味しい食事をありがとうございました!

あと特筆すべきはお風呂と稽古場がとても広かったことだろう。

でかくて広ーい

お風呂も上がると、時刻は22時。消灯時間である。健康的な生活を強いられることで、体が健康になってしまいそうである。
2日目もきっと、素敵な一日なるよね!

以上、ゆうとでした。

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