私と「さいごの恐竜」

こんばんは。メリークリスマス。クリスマスイブの夜に書いています。

比田茉莉です。第27回公演「さいごの恐竜」にご来場いただきありがとうございました。

オープニングの博物館シーン

終演からもうすぐ2か月が経とうしています。

この時期いつもは、大道具小道具制作裏話~と題してブログを書いていますが、今年は脚本・演出・小道具を担当したので、私の中での舞台「さいごの恐竜」のはじまりから本番まで、その1年10か月の裏話を書きたいと思います。長い文章になりますが、よかったらお付き合いください。

YouTubeチャンネルに動画がアップされました。以下ネタバレを含みますので、まだ見てないよと言う方は、よかったらYoutubuチャンネルの公演動画を観てからお読みくださいませ。上演時間は約70分です。

さいごの恐竜 森組(15時30分開演)
https://youtu.be/OvM86-SQ_74?si=ZgTSnis116XwUa0R

さいごの恐竜 宇宙組(18時30分)
https://youtu.be/4xLe6e02wFI?si=BLVdq9JBZCrp9GTM

脚本化の経緯

2023年2月の劇団総会で、2024年の舞台会場について、キャパの約半分のバルトホールであることや仕込みの時間が取れないことなどが確認され、いつもより短い演目をやったらどうかという話が出ました。それを聞いたときに、村山由佳さんの「さいごの恐竜ティラン」を舞台化できないだろうかという思いが生まれ、今回の原作「さいごの恐竜ティラン」を自分で脚本化してみようと書き始めました。

原作の表紙。挿絵も素敵です。

2023年5月ごろに出版社と連絡を取り、村山先生の担当者を通じて舞台化の許可をお願いしたところ、快く許可していただきました。なんとなく書いていた脚本を本格的に8月の脚本コンペを目指して書き始めました。自分が原作に衝撃を受けたのは19年くらい昔、4歳くらいの息子に読み聞かせていた時ですが、その時(最後の方は号泣して何を読んでいるかわからなくなり、息子がきょとんとしていた記憶)胸に受けた衝撃と長らく獣医師として生きてきた「命」に対する思いが1本に繋がった不思議な感覚で、脚本が出来上がっていきました。

新たなキャラクターと新たなシーン

原作の主な登場人物は、お母さんザウルス、お父さんザウルス、トガリネズミ、ティラン、でした。劇団員の人数を考えると圧倒的に役が足りないので、登場人物を増やす必要がありました。原作の世界観を残したくて、語りの役(雪の精)をつくりました。着ぐるみを着ない恐竜を恐竜と認識してもらうために、博物館職員に「これはティラノサウルスです」と言わせてしまうことにしました。どうやって、ティランは育っていったのかなと考えて、友達は?学校は?恋はした?仲間の恐竜たちはどうやって受け入れていった?いったい何を食べて育った?などを考えて、原作にはないキャラクターを増やしました。

原作にないシーンとしては、マリアの卵が1つ孵らないシーンです。原作では5個みんな無事に孵るのですが、「食べる食べられる」という自然界のつながりを表現したくてトガリネズミに卵を渡すシーンをつくりました。二人のマリアとジョージにとってこのシーンはかなり難しいシーンになったかもしれません。

また、最後の氷河期でマリアとティランを襲ってくる肉食恐竜は原作では肉食恐竜とだけ書かれており挿し絵はティラノサウルスの群れのようでしたが、舞台では小型の肉食恐竜ヴェロキラプトルにしました。大人になったティランの初登場のシーン、まだ地球におだやかな時間が流れているとき、マイアサウラのサラを追っかけていたヴェロキラプトルは、ティラノサウルスのティランをみて、獲物をあきらめていますが、氷河期では一変して、ティラノサウルスに対しても躊躇なく襲い掛かります。それほどの飢えと生きようとする執念のような、生物が持つ生存本能のようなものがあの瞬間ヴェロキラプトルにあったことが伝わればなと考えました。

トガリネズミにもドネという名前をつけて、出番を大幅に増やしました。特にドネのシーンは、「悲しい」お話の中にあって、楽しいシーンになるように書きました。そして、このドネには恐竜が絶滅したあとも生き残り、やがてヒトへと進化する原始的な哺乳類の象徴としての役割ももたせました。名前のもとになったProtungulatum donnae(プロトゥンギュレイタム・ダネー)という古代のネズミは全哺乳類の祖先です。

脚本決定と半端ないプレッシャー

出来上がってみて、はたして劇団宇宙の森っぽくないんじゃないかなという不安がまずありました。

登場人物は恐竜です。原作は児童書です。役者たちが演じたいと思うかな?

そしてこれはいったいどのくらいの上演時間の脚本なのよと。

いろいろと不安を抱えたまま、8月の脚本コンペを迎え、結果が出るまでの1週間は久しぶりに、本当に久しぶりに、長い受験勉強をした末に、受けた試験の結果を待っている受験生の気持ちでした。結果を待つ間に見つけた、劇作家セミナーの申し込みをしました。書き終えた後でしたが「ちゃんとした」脚本を書けるようになれたらなぁと。

もし選ばれなかったら、稲城市で有志をあつめて自主公演してもいいか、なんて考えていたりもしました。

晴れて2024年の第27回公演の作品に選ばれて「舞台化できる!」っていう喜びと「本当にやれるの?私でいいの?」という疑念?が入り混じった感情で、その夜お酒を飲みました。

脚本コンペのあとは2023年の公演「フランケンシュタインの永遠」の稽古が本格化して、大道具製作もあり「さいごの恐竜」から離れた時間が流れます。そして、「フランケンシュタインの永遠」の本番、終演後の打ち上げでアンケートを読んだ時に、

「来年も楽しみにしています!」

「来年はバルトホールですね。絶対行きます!」

「次回作、期待してます!」

武者震いという表現が正しいかどうかわかりませんが、「フランケンシュタインの永遠」が大成功だった喜びよりも、来年へのプレッシャーで震えておりました。

2回公演ダブルキャスト、キャスト決定

3月にキャストオーディションを兼ねた稽古をやり、ダブルキャスト、2回公演が決まりました。今思えば、いろいろ甘く考えていたなぁと反省します。ダブルキャストで2公演、予想以上に大変でした。結果オーライではありますが・・・。多分、今後ダブルキャストになることはないかもしれません。最初で最後の幻のダブルキャスト公演かも。

キャスト決めるのも1案、2案、3案くらいまでありました。終わってみると不思議と、ミスキャストは無く、むしろこのキャストにしてよかったなぁと思いました。特にマリアとティランは、森組が「静」に対して宇宙組が「動」。その印象がくっきりと分かれました。それぞれに良さがあります。もし、片方しか観劇されていない方は、ぜひ違う組の方を、映像で観てみてください。

えっと、演出ってどうやるの?

キャストが決まってからの稽古は4月からスタートしました。何をどうすればいいのやら何にもわかりません。まだみんなセリフももちろん入ってないし。ひとまず、出ハケなどの動きを伝えて動いてもらうことにしました。そのために最初から最後まで動きをつけていきました。そうすると舞台の脳内イメージが明確になって、後述するプロジェクターの絵を決める手助けになっていきました。ただ、今思えば、もっと初期に、その役のもつ背景とか、私がどういう思いでこの役をつくったのかなどをじっくり話せたらよかったなと思います。一時やった母子エチュードなどももっとやればよかったと。役を作ってもらうにあたって、もっと情報を出していけばよかったかもと。でも逆に出さなかったことで、役者ひとりひとりが脚本を読んで得た、それぞれの役のイメージをまず表現してくれたことで、「まったく違って面白いなぁ」ということに気が付き、それ以降の演出の柱になっていったという好転反応も。

自分が思い描く理想の「さいごの恐竜」が真ん中にあって、その両脇に「森組」「宇宙組」の「さいごの恐竜」が、真ん中によったり離れたりしながら、それぞれに成長していきました。「私が思ってたのと違うけど、伝えたいことは伝わる」ってなってたら良しとしました。自分が伝えたいことから離れてしまったところだけ軌道修正する感じ。演出について書かれたサイトでみつけた「演出は奴隷」という言葉が座右の銘みたいになっていました。演出は、脚本の奴隷、役者の奴隷、観客の奴隷・・・。そんな風にしていたら、「なんでも受け入れすぎ」「求めているものが明確じゃない」「言ってることが信用できない」と役者たちに言われる始末。伝え方の本とかをAmazonで探して買っちゃったりして、もうかなり迷走していた時期もありました。みんな一人一人役の作り方があって、全員に共通するようなやり方は無いので、そういう難しさは常に感じていました。なるべく、役として生きている役者が「こうしたい」というのを大事にしようと心がけました。劇団宇宙の森の役者たちはほんとすごくて、稽古時間が少ない中、きっちりと本番にピークを持ってきてくれました。照明や音響も、いろいろと意見をもらいながら、決めていきました。

恐竜を演じるリアルとフィクション

このお話はフィクションです。恐竜が話したりはしないし、肉食恐竜を草食恐竜が育てたという事実はありません。出てくる化石も、府中市自然史博物館も架空です。でもそのフィクションの中に、恐竜の絶滅した歴史的な事実や、野生動物のそれに近い恐竜たちの生態をもりこんで、フィクションの中のリアルを目指しました。恐竜のことをいろいろ調べて、「にわか恐竜大好きおばちゃん」になっていきました。7月に福井県の県立恐竜博物館にも足を運びました。

恐竜ってすごいなぁとつくづく思いました。恐竜のことを調べながら、ティラノサウルスとマイアサウラは出会っていたのかとか、ディノケイルスはいつごろどこに生息していたのかなどを知るにつけ、矛盾を見つけたりして「うわー」ってなったりしていました。

また、役者によく言った言葉が

「人間だとそう感じるけど恐竜はそう感じない」

何言ってんのかちょっとわかんないって思われていたかもしれません。そう言ってる私も「恐竜」がどう感じるかなんて知らないわけで(笑)

前述した、原作に無いシーン。5つの卵が産まれて、2匹で大切にしていたのに、4つ孵って1つは孵らなかった。孵らなかった一つを「眠り卵」という表現をしています。完全なフィクションで、現実の恐竜はトガリネズミに卵を渡したりしないわけです。でも実際の自然界で孵らなかった卵はいずれ「誰か」が食べると思うんですよ。誰かが食べるとういことにその卵の親もとくに異論はない。孵らなかった卵より孵った子どもたちの方が大切です。人間の感覚だと、「孵らなかった卵可哀そう、悲しい」なんですけど、このシーンは野生に生きる「恐竜」だから。ただし、観客は人間だから、恐竜を擬人化してるわけだから、孵らない卵に完全にクールでも「冷たい親」な感じになっちゃう。その辺の、絶妙なニュアンスが、なかなか大変だったかと思います。

雪の精の存在

原作には出てこない雪の精は、単なるストーリーテイラーではありません。雪はまだ降っていない、物語のはじまりから「雪の精」が登場しています。それは、雪の精が、はじめから全部わかっている存在だからで、ジョージが食べられてしまうのも子どもたちがたべられるのも、隕石が衝突して、恐竜たちが全滅してしまうことさえもすべて知っている。ティランとマリアを見守る存在。雪の精の二人にはそれを意識してやってもらいました。本来黒子であろう、途中小道具を用意したり、トンボや木になる役も、雪の精の手下?として、衣装を白で統一。いわば白子。稽古では「小雪」と呼んでいました。最後の雪が降り積もるシーンに雪の精と一緒に登場させました。役者が埋まるほどの雪を舞台に降らせるわけにはいかないので、雪の結晶の模様の布をかける演出はかなり早くに決まっていました。しかし、雪の精たちが「美しく」登場して、「美しくかける」「ティランの身体を全て隠す」そして、「美しくはける」というのは思ってたより難しく、本番直前でこのシーンの稽古、結構やりました。

雪が二匹に降り積もっていきます

プロジェクターの効果

今回のバルトホールは、いつものふるさとホールより小さな、しかも円形の舞台で、時間も考えると大道具は必要最低限、高台となる平台だけ。そのかわり、プロジェクターが性能の良いものがあるとのことだったので、そこに背景を投影することにしました。プロジェクター班を立ち上げ、使えそうな画像を集めてもらいました。利用したのは生成AIです。「白亜紀、鬱蒼とした森」の画像を描いてと指示すると、たちまちステキな森の画像が・・・・と思ったら、変な恐竜たちが歩き回ってるシュールな森の画像になりました。さらに「白亜紀、鬱蒼のした森、恐竜いない」と指示してもなかなか理想の画像にならなかったです。結局細かく「シダ植物が根元に広がる鬱蒼とした森」など、いろんな指示を出してあの絵が完成しました。つい最近、同じAIに「白亜紀、鬱蒼とした森」と指示したら、格段に良い画像を作ってくれました。AI、すごいスピードで進化している!!プロジェクターの森の画像はいくつかあり、それぞれ、泉の森、マリアたちの巣がある森、ジョージの骨を発見した森、など意識して使用しています。

隕石が落ちるところは、NHKのビデオライブラリからお借りしました。動画の中のNHKの表記を消さずに使用することが条件でしたので、左上にあったNHKのロゴに気がついた方も多かったのでは?

こうして集めた画像や動画をスライドショーのソフトに入れてくれたじみぃちゃん、演出の無茶ぶりをほんと速やかに対応してもらいました。ありがとうございました。

愛すべき小道具たち

演出をするから、今年は大道具や小道具は作ってる暇ないだろうなぁと思っていたのですが、4月稽古がはじまる前の1月~3月の間、もう今作っちゃおって感じで、マイアサウラとティラノサウルスの卵を作り始めました。まずマイアサウラの卵をスタイロフォームで切り出してみました。・・・・大変でした。これあと4つやるの大変×4だな。ちょっと探してみようかな。というわけでネットで検索したところ、発泡スチロール卵型を発見!4個購入し、最初に作ったものと合わせて5個に。時を同じくしてNoriちゃんが中が空洞の卵を作ってきてくれました。これはこれで面白いし、孵化した後のシーンで割れた卵として使えないかなと思っていたのですが、小道具の出はけの関係で本編に登場させられなかったので、今は恐竜の子どものフィギュアを詰めて、うちの玄関に飾られています。

さて、流石にティラノサウルスの卵の大きさの発泡スチロール卵型は見つかりませんでしたので、一からスタイロフォームで作りました。かなり時間がかかったのですが、4分ほどの動画にまとめてみましたので、興味のある方は動画で(≧∀≦)観てください。

ティラノサウルスの卵作成動画。早回ししてますが、4分くらいあります。
マイアサウラの卵。本番直前に色をつけました

卵から孵ったマイアサウラの赤ちゃんたち。

これは、ぬいぐるみですが、私の妹がそういうものをつくるのを得意とする人だったので、春頃に見本の小さな恐竜を渡して、「これをちょっと大きくした感じのを4体」とオーダーしました。1体試作ののち、4体の赤ちゃん恐竜が誕生し、合宿から稽古に登場しました。マリア役からは「ぬいぐるみが来てから、グッと役に入り込めるようになった」と好評をいただきました。妹への報酬は、何回か、ぬいぐるみの打ち合わせと称した全額私持ちのサシ飲みで手を打ってもらいましたd( ̄  ̄)

そして、「ヤンマ」です。福井県の恐竜博物館で古代のトンボを観ましたが、ほんとに大きかったです。

ゆうと君が華麗なトンボさばきを魅せるシーン

稽古ではじめに登場したトンボは、当初白を基調とした色の無いものにしたかったので、こんな感じ↓

初号機トンボ。これでずっと稽古をしていました。

でも、役者達からはトンボっぽく無いと不評(T_T)

本番までに作り直すことに。これも、色々トンボを調べ、トンボのフィギュアを買ったりしてて、制作したのですが、2チームが本番まで使うので、丈夫で壊れない必要がありました。トンボ初号機はスタイロフォームのみで削ってますが、改良タイプは身体を、長くした関係で、折れないように中にプラスチックの棒が仕込まれています。改良タイプが完成したのは、本番小屋入り1週間前でした。しかも、初号機に比べて一回り大きくなり、彩色もリアルに色付け。

1週間前にして、役者たちにヤンマの取り回しの稽古を一から強いることになってしまいました。特に宇宙組ドネ役の幸生は、虫を写真ですら見られないほどの、大の虫嫌いで、稽古で初号機にやっと慣れていたのに、直前で虫感アップしてしまい・・・。申し訳けなかったなぁ。でも、本番は驚異の対応力で虫嫌いを感じさせなかったです!

70分のコンパクトな作品

ここのところ毎年2時間近い演目を上演してきた劇団宇宙の森としては、上演時間70分は、比較的コンパクトな作品となりました。それでも伝えたいことをちゃんと届けられたなと、終演後のアンケートを読んで思いました。脚本・演出もたまには良き。来年は「ふるさとホール」に戻ります。大道具つくるぞ~。

では今日はこの辺で。最後まで読んでいただきありがとうございました。公演動画をご覧になって、Youtubeチャンネル登録よろしくお願いします。

次の機会がありましたら、使用した楽曲について紹介したいと思います。でも忘れそう・・・。

さてクリスマスケーキ食べよ。

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